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相続財産を遺言書どおりには分けたくない【お父さん、ごめんね】

遺言書どおりにしなくてはダメ?

父が亡くなった。

遺言書は、書斎の引出しの中から出てきた。

検認を済ませた遺言書を、母と私と弟で読んでみる。

懐かしい几帳面な父の字が、涙でにじんで見えなくなる。

気を取り直して、ゆっくりとひと文字ひと文字を目で追ってみる。

お父さんったら。

そりゃないでしょ。

私のことをかわいがってくれていたのは分かるけど、預貯金のほとんどを私に相続させるって?

横で母は言葉に詰まり、弟はみるみる青ざめていく。

なになに?遺言書の最後のところに父からのメッセージがある。

「私も身一つで苦労して今の財産を築いた。息子よ。君も苦労は買ってでもしなさい。君を信用して、財産はあまり残しません。」

青ざめていた弟の顔色は少し色を戻したけれど、私がめちゃくちゃバツが悪い。

「お父さんは昭和一ケタの人だからねぇ」

と分かるような分からないようなセリフを残し、母は冷たくなったお茶を替えに台所に行った。

 

さすが、父。

父が残した自筆証書遺言は完璧だ。

法的にも完全に有効らしい。

弟に相続させる財産も、きっちり遺留分は守っている。

けれど。

このまま父の言うとおりに遺産分けをしたら、私と弟はこの先も仲良し姉弟でいられるのか。

なんだか引っかかる。

次の日。

一晩寝てよく考えたけれど、父が私に残してくれた預貯金から弟に渡して、同じ額を相続するようにしたい。

けど、それでは遺言書と違う遺産の分け方をすることになる。

お父さん、ごめん。

けど、こうするとすっきりとみんな仲良く暮らしていけるように思うから。

 

遺言書と異なる遺産分割は、できます!

上記の「私」は、弟より多い遺産をもらい、嬉しいけれど後の弟との関係が悪くなるのではないかと気にしています。

父の気持ちは分かるけれど、でもやっぱり弟と公平に遺産を分けたい。

このような時、遺言書と異なる遺産分割も有効となる可能性があります。

それは、遺言執行者がいるかないかによって変わってきます。

遺言執行者がいる場合といない場合とで、見てゆきましょう。

 

遺言執行者がいない場合

遺言執行者とは、遺言者に代わり、遺言の効力発生後、その内容実現に向けて必要な事務一切を行う者を言います。

遺言書のなかに遺言執行者が指定されていない場合、また遺言執行者を選任すべき相続でない場合には、相続人全員の同意があれば、遺言書と異なる遺産分割協議を行った場合でも、その協議は有効です。

このご家族の場合、遺言執行者は遺言書で定められていないので、母と私と弟、全員が遺言書と違う遺産分割をすることに同意すれば、遺言書と異なる遺産分割をすることができます。

 

遺言執行者がいる場合

遺言執行者がいる場合にはどうなるのでしょうか。

遺言執行者は、遺産について管理権を持ちます。(民法1012条)

ですので、遺言執行者がいる場合には、遺言執行者の同意のもとで遺言書と異なる遺産分割を行った場合には、その遺産分割は有効となります。

 

では、遺言執行者はいるけれども、相続人全員が希望する遺産分割に、遺言執行者が同意しなかった場合がはどうなるのでしょうか?

この場合にも、遺言書と異なる遺産分割協議は有効であると、裁判所は示しています(大阪地裁判決:平成6.11.7)。

 

お父さん、ごめんね

今回のケースのご家族は、父の気持ちはしっかりと受け止めながら、父の決めた遺産分割とは異なる割合の分割をしました。

弟は父の気持ちを受けとめながら、また姉の気持ちも温かく思いながら、この先の人生を歩んで行かれると思います。

亡くなったお父さんは、娘がきっとこうするだろうと予想して、あえてこういった遺言書を残したのかも知れません。

当事務所では、遺言書の作成サポートをうけたまわっております。

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